Carla Bley > Dinner Music
 Carla Bley
 カーラ・ブレイ
 Dinner music /Carla Bley
 ディナー・ミュージック
Released:
1977
LP
・Watt 6  1977
・ECM 2313106 1977

CD
・ECM 825815-2 1992
・ECM 825815 2000

Produced:Carla Bley & George James
Executive Producer:Michael Mantler
All compositions by Carla Bley
1(A─1):Sing Me Softly Of The Blues 7:42
2(A─2):Dreams So Real 5:32
3(A─3):Ad Infinitum 5:52
4(A─4):Dining Alone 4:33

5(B─1):Song Sung Long 6:02
6(B─2):Ida Lupino 7:57
7(B─3):Funnybird Song 3:03
8(B─4):A New Hymn 7:25

Roswell Rudd :Trombone
Carlos Ward :Alto & Tenor Saxophone、Flute
Michael Mantler :Trumpet
Bob Stewart :Tuba
Richard Tee :Piano、Electric Piano
Eric Gale :Guitar(on 2、4、6)
Cornell Dupree :Guitar(on 1、7)
Carla Bley :Organ(Piano introduction on 1)、Vocal on 4、Pianp & Tenor Saxphone on 6
Gordon Edwards :Bass Guitar
Steve Gadd :Drums

録音:1976年7〜9月、ミックス:1976年10月 at Grog Kill Studio, Willow, NewYork
 
 Review
 クロスオーバーブームが盛り上がっている最中の1977年に発表されたユニークなアルバム。 カーラ・ブレイ・バンドのホーンセクションと Stuff のメンバーとのセッションアルバムです。 ただし、Stuff のクリス・パーカーは参加しておらず、Dr は Steve Gaddのみ。 カーラ・ブレイ・バンドからは4人のホーンセクションと Carla Bley 自身がアレンジャー・Key・Voとして参加しています。

 Carla Bley 作品は私の場合、アナログ盤/CD共に見事なまでに全て安い輸入盤で揃えてしまっているので、日本語ライナーノーツ経由の知識は全くないのですが、彼女は基本的にJazz畑の人です。 いろいろなミュージシャンとセッションを行っていますが、活動初期〜現在に至るまでJazz系ミュージシャンとの競演がほとんどで、このアルバムのようにR&B系のミュージシャンとのセッションは他にないのではないかと思います。 まさに、音楽の異種格闘技が普通に行われていたこの時代だっただからこそ生まれた1枚と言えると思います。

 アルバムのライナーによると録音は1976年7〜9月との事(発売は翌1977年)ですが、実は Stuff がグループとしてデビューしたのが、同年7月のモントルージャズフェスティバルとされており(→Stuff「 Live at Montleux 1976」のページ参照)、Stuff のグループ初期の録音のようで、また、このグループの1stアルバム「Stuff」の録音が秋頃とされているので、その1stアルバムと同時期、場合によっては「Dinner music」のほうが先の録音である可能性すらあります。 いずれにしても、グループ初期の録音であるにもかかわらずとても息の合った演奏なのは、各メンバーが Stuff 結成前より長年セッションを行っていた旧友であったからでしょう。

 ちなみにこの1976年7〜9月と言うのは、偶然にも、Randy BreckerMichael Brecker と日本人ミュージシャンとの初めての競演作となる、深町純 の「Spiral Steps」が制作されていている時でした。

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 数あるJazzアルバムの中でも独特の個性・アクがあり、Jazzファンの間でも好みが比較的はっきりするのではないかと思える当時のカーラ・ブレイ・バンドと、これまた個性の強いR&Bの人気バンドとの競演ということで非常に面白いアルバムですが、グルーブ感が Stuff そのものの曲があり、全体を通しての第一印象としては Stuff 色が強いかな?という感じです。 荒っぽく言えば、Stuff + ホーンセクションのアルバム、と言えなくもないかなと言う第一印象もありますが、同じホーンセクション付きの Stuff のアルバム「Stuff It(1979年)のファンキーで明るくハッピーな感じとは違い、このアルバムは、家庭的で楽しい夜の雰囲気を感じさせる曲や、妖艶なムードあふれる曲が揃っています。 アルバムタイトルがとてもうまく内容を表現していて、油こってり・ハイカロリーだけどこの上なく美味しい Dineer を楽しい雰囲気の中で楽しんでいるかのような印象。 また、1977年と言えば、Stuff が「More Stuff」を発表した年ですが、大人の夜の雰囲気があると言う点では、この「Dinner Music」と感じが似てると言えなくもないかも。 聴き比べてみるのも面白いかもしれません。

 しかし実は、このアルバムで随所にちりばめられている独特な妖艶な雰囲気のアレンジというのは、まさに Carla Bley の個性・持ち味で(この後、1980年代の作品でだんだんと顕著になっていきますが)、一見 Stuff の面々が個性を放っているかのようで、実は Carla Bley の緻密な計算でアレンジに取り込まれているという事に、アルバムを聴き終わったあとで気がつきます。 発表された1977年当時、Carla Bley は38〜39歳頃のはずで、アーティストとしても脂がのっていた頃だったのかもしれません。 このアルバム、とても満腹感のある後味の良い Dineer です。
 

 1曲目「Sing Me Softly Of The Blues」の出だしは、友人を招いてのなごやかな夕食かホームパーティーらしきSE(効果音)がバックに流れ、静かに Carla Bley のゆったりとしたピアノソロが聴こえてきます。 SEの最後で小さくだれかのゲップらしき音(こういうちょっとしたユーモアも Carla Bley らしい)が聞こえたら、カーラのハモンドオルガンでイントロが始まります。 バックのリズムやピアノは Stuff そのもの。 実にノリが良い。 その後、トロンボーンが目立つブラスでテーマに入り、トランペットのソロ、Cornell Dupree(=コーネル・デュプリー、当時Stuff のメンバーでもあった)のギターソロ、トロンボーンのソロが続きますが、そういえば Cornell Dupree のソロ部分は実質 Stuff のメンバーのみの演奏になっています。 その後、トランペットが少し絡みながらトロンボーンのソロが続き、テーマに戻りつつ、トロンボーンのソロが延々と続きます。 曲の後半ちょうど半分がトロンボーンソロで占められていますが、飽きは来ません。

 2曲目はピアノと Eric Gale のギターでイントロがありますが、すぐにトロンボーンのテーマ部分に入ります。 曲中の最初のソロもトロンボーンなので、この辺まで聴くとStuff の事を少し忘れかけて、トロンボーンのソロから来る独特な雰囲気に飲み込まれています。 3曲目では、アルトサックスが大きくフューチャーされています。

 4曲目では Carla Bley 自身がボーカルをとっています。 私は英語がわからないので何を歌っているのかよくわかりせんが、なんだかけだるい感じで歌っており、曲の最後は彼女のため息で終わり。 こんな感じでだんだんとこのアルバムの雰囲気に引きづり込まれていくのです。

 他のビックバンドにも良くあるように、アレンジャーである Carla Bley もその時々のお気に入りのソリストをゲストとして演奏に良く登場させます。 それは年代によって違うのですが、このアルバムではトロンボーンで、Roswell Rudd(=ラズウェル・ラッド、1935- )と言う人です。 この人は、この後のアルバム「Musique Mecanique」(1978年)にも登場しますが、このアルバムでは「1、2、3、6、8曲目」で大量のソロをとっています。 この人のトロンボーンは舌足らずな感じがなくとても饒舌で感情が豊か、特に最後の曲「A New Hymn」では質量共にたっぷりと情感あふれるソロをとっており、見事に盛り上げてこのアルバムを締めくくっています。 Stuff メンバー達の演奏ともしっくり合っているようです。

 Richard Tee(リチャード・ティー)は全ての曲でバックをつとめていますが、このアルバムでソロをとる事はありません。 しかし存在感は抜群で、主役を食う事無く、逆に他の個性に埋もれてしまう事も無く、彼独特の個性を出しつつ見事な合いの手を入れてきます。 Richard Tee は素晴らしいリーダー作も出していましたが、このアルバムその他数多いゲスト出演作を聴くと、実は「名脇役」だったのかなあ?という感想も持ちます。

 ちなみにこのアルバムジャケットのデザイン、内容をうまく表現していて面白いと思うのですが、レストランのメニューらしきものに見立てた楽譜に、赤いシミが付いています。 これは料理のシミかなにかで面白い演出だと思いますが、これが付いていたのは輸入盤のジャケットのみで、レコード屋で見た当時の国内盤LPにはシミがなく何か物足りない感じでした。

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 Carla Bley ファンのみならず Stuff ファンにも素直に受け入れられるアルバムです。 一連の Carla Bley の比較的アクの強い作風のアルバムの中では意外にも聴きやすい1枚かもしれません。 個人的には高校生当時に Stuff にハマっていた頃、Stuff つながりでこのアルバムを入手してかなり聞き込んだ思い出のアルバムでもあります。 このアルバムのおかげで Carla Bley の存在を知ることができ、クロスオーバーブームの去った1980年代には彼女の一連のアルバムを聴くようになりました。 さらに言えば、ビックバンドつながりで Gil Evans(ギル・エバンス)あたりを聴くようになったのも、このアルバムがきっかけとなっているかもしれません。

2006(H18)年10月26日掲載

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