Richard Tee > Strokin'
 Richard Tee
 リチャード・ティー
 Strokin' /Richard Tee
Released:
1979
LP
・Tappan-Zee Records, Inc. JC-35695(1979)

CD
・Tappan-Zee Records, Inc./Castle Communications.plc
 ESM-CD-596 GAS-0000586-ESM(1997)
・Videoarts Music(JAPAN) VACM-2019(1995)

Producer :Bob James
1(A-1):First Love (Chuck Rainey) 4:53
2(A-2):Every Day (Richard Tee, Bill Withers) 5:24
3(A-3):Strokin'(Richard Tee) 5:20

4(B-1):I Wanted It Too(Ralph MacDonald, William Salter) 5:02
5(B-2):Virginia Sunday (Richard Tee) 5:30
6(B-3):Jesus Children Of America(Stevie Wonder) 4:45
7(B-4):Take The "A" Train(Billy Strayhorn) 4:43

Richard Tee :Piano、Keyboards
Eric Gale :Guitar
Steve Gadd 
:drums
Chuck Rainey :Bass
Ralph MacDonald :Percussion
Hugh McCracken :Harmonica (solo on 4)
Michael Brecker 
:Tenor Sax(Solo on 3)
Tom Scott 
:Lyricon (Solos on 4,5)、Tenor Sax (Solo on 1)

Vocals :Richard Tee(Lead Vocal on 2)
    :Bill Eaton
    :Frank Floyd
    :Ken Williams
    :Zachary Sanders

Horns :Randy Brecker
    :Michael Brecker
    :Jon Faddis
    :Seldon Powell
    :Barry Rogers

Strings :David Nadien(concertmaster)
    :Jonathan Abramowitz
    :Al Brown
    :Max Cahn
    :Selwalt Clarke
    :Harry Cykman
    :Paul Gershman
    :Kathy Kienke
    :Beverly Lauridsen
    :Jesse Levy
    :Guy Lumia
    :Kermit Moore
    :Max Pollikoff
    :Stan Pollock
    :Gudun Schaumann
    :Richard Sortomme

 Review
 Richard Teeの初リーダー作にして最高傑作。 プロデュース・編曲は、当時自己のレーベル「タッパン・ジー」を立ち上げたばかりの Bob James が手がけています。 全体的にはNew Yorkらしい洗練されたポップな印象のアルバムですが、R&Bの雰囲気はきちんと残していて、Stuff 等での演奏とはまた違った Richard Tee の魅力が堪能できます。 豪華ゲストが多数参加しているのも魅力の一つ。 セッションが多い人気ソリストのリーダー作というと、何となく力み過ぎ?というアルバムもあるのですが、このアルバムにはそんな気負った感じはなく、1stリーダー作でありながら風格すら漂っています。 発表から30年を経過した今聴いても古さや陳腐さは微塵も感じさせない、いや、年月を経た今はさらに熟成が進んだようにも感じる聴けば聴くほど味が増す大傑作アルバムです。

 Richard Tee といえば、ドラムのSteave Gaddとのコンビが非常に人気が高かったのですが、ここでも全曲この黄金コンビ。 大編成によるストリングスも入っていてなかなか豪華な作りで、しかも録音機材や編集が良いのか、一つ一つのパートがくっきりと鮮明に聴き取れ、オーディオ的にも音質がなかなか良いのも大きな魅力です。

 全ての収録曲が素晴らしいのですが、個人的には1曲目「First Love 」、3曲目「Strokin'」、7曲目「Take The "A" Train」が特にお勧め。 この3曲のためだけにこのアルバムを買っても全く損は無いと思います。 4曲目「I Wanted It Too」や6曲目「Jesus Children Of America」などアメリカ南部を強く連想させる曲もありますが、洗練された感じがキープされているのはさすが。 プロデュース・編曲のBob Jamesのセンスの良さでしょう。

 3曲目「Strokin'」は5分23秒の短い曲ですが中身がとにかく濃い。 編曲・構成が見事で、起承転結がこんなにも感動的な曲は珍しいと思っています。 曲はピアノソロで始まりリズミカルにテーマが進行し、1分45秒くらいからのR.Teeの凄いアドリブが堪能できます。 そのうちベースとギターが消え、ピアノとドラム、ストリングス、Perだけになるのですが、Steve Gaddのドラムは何とハイハットとバスドラのみでスネア・シンバルは無し。 Perと共にシンプルなリズムに移行し、ストリングスもこのアドリブの最初と途中に少し入るだけです。 まさに Richard Tee の1人オーケストラ状態ですが、その雄大さは驚きの一言。 曲後半のゲストのMichael Brecker(T-Sax)のアドリブもこれまた見事で、時間は短いのですが、この頃のMichael Breckerのソロの中でも珠玉の1品です。 この時はピアノはバックに移行、ベースとギター・ストリングスが復活し、フルオーケストラ状態で曲が最高潮に達します。 約45秒間のMichael Breckerのソロの後にピアノメインのテーマに戻り、だんだんとフェードアウトしていきます。 Richard Tee のピアノはR&B的でありながら優雅なストリングスとの相性が抜群だし、左chから聴こえて来る Eric Gale の枯れた音色のカッティングギターも本当に味があるし、控えめなベースも好感持てるし・・・と、この曲の一音一音・構成要素の全てが本当に素晴らしい。 この曲を聴いていると感動してまぶたに熱いものを感じます。 自分の葬式にはぜひかけてもらいたい1曲だと思っています。

 7曲目「Take the "A" Train」は、Richard Tee はJazz的なアプローチも難なくこなせるのだと言う事を知らしめた名演奏です。 Jazzのスタンダード「A列車で行こう」ですが、曲の始まりからかなり原曲を崩した演奏になっているので、タイトルを見ないと何の曲だか分かりません。 またこの曲の凄さは、ピアノの Richard Tee とドラムの Steve Gadd の2人だけの演奏なのに何でこんなにスゴいの?という所にもあります。 4分43秒の短い曲で、しかもその間 Steave Gadd が絡むデュオの部分は約1分半だけ。 それなのに凄い。 双方の演奏のテクニックとダイナミックさが、とても2人だけの演奏とは思わせない。 ここでは2人オーケストラ状態です。 曲の最後にピアノだけのスローなテーマに戻り、このへんでやっと「Take the "A" Train」なんだなと分かり、そういう構成もカッコいい曲です。

 また、このアルバムの素晴らしさで押さえておきたいのは、ジャケットのデザイン。 Bob Jameのレーベル「タッパン・ジー」のジャケットはシンプルでダイナミックなデザインが特徴で、CDジャケットでなく大きなLPジャケットで見たほうがカッコ良さがよくわかります。

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 この初リーダー作の成功の後、翌1980年にはリーダー2作目「Natural Ingredients」を発表しました。 アルバムのコンセプトや、ドラムのSteve Gaddとのコラボレーションを売りにしているという内容は同じなのですが、時代の空気に呼応してか作風はさらにポップに移行していました。 しかし、アルバム最後の6曲目「Spinning Song」は、1作目最後の曲「Take the "A" Train」を踏襲し、ピアノと Steve Gadd のドラムだけのデュオを展開していてこれは素晴らしい。

 Richard Tee のリーダー作は、この後1980年代に日本のレコード会社・プロデューサーによるものが数枚発表されていますが、栄光の1作目の後追いみたい、という印象が多少残ってしまうのが少し残念。 この1作目「Strokin'」が偉大過ぎたのでしょうか。 このアルバムが発表された1979年頃は、今にして思うとクロスオーバーブームが最高潮に達していた時で、多くの傑作アルバムが生まれていた時期でもあります。 このアルバムは、80年代初頭に急激にしぼんでしまうブームの、最後の大爆発の中の奇跡の1枚だったのかもしれません。

2004(H16)年08月26日掲載・2008(H20)年3月一部追記

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